大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行ケ)60号 判決 1998年3月25日

静岡県田方郡大仁町大仁570番地

原告

株式会社テック

代表者代表取締役

久保光生

訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

石川義雄

小出俊實

西村雅子

住居所不明

(最後の住所)東京都世田谷区船橋7-8-1の1020

被告

河内一男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた判決

特許庁が、平成5年審判第14566号事件について、平成9年2月10日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、別紙1のとおり「グリーンテック」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表(以下単に「施行令別表」という。)による第11類「テープレコーダー用テープ、その他本類に属する商品」とする登録第2419735号商標(昭和52年12月13日登録出願、平成4年6月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成5年審判第14566号事件として審理したうえ、平成9年2月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月27日、原告に送達された。

2  審決の理由の要旨

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標と、別紙2のとおり「テック」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を施行令別表第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」とする請求人(注、原告)の有する登録第1240435号商標(昭和44年6月10日登録出願、昭和51年12月13日設定登録、昭和61年11月13日存続期間の更新登録、以下「引用商標1」という。)とは、その外観、称呼及び観念のいずれよりみても非類似の商標と認められ、本件商標が、引用商標1との関係で商標法4条1項11号に違反して登録されたものではなく、また、本件商標の登録出願日と、「TEC」の欧文字を横書きしてなり、指定商品を施行令別表第11類「電球類および照明器具、民生用電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具」とする請求人の有する登録第1668400号商標(昭和53年4月12日登録出願、昭和59年3月22日設定登録、以下「引用商標2」という。)の登録出願日との先後関係より、本件商標が、引用商標2との関係でも商標法4条1項11号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項により無効とすることはできないとした。

3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件商標が引用商標2との関係で商標法4条1項11号に違反して登録されたものではないこと、引用商標1から「テック」の称呼を生ずることは認める。

審決は、商取引の実際において発生する本件商標の称呼の認定を誤り、さらに本件商標と引用商標1の称呼の類否判断を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

(1)  本件商標から生ずる称呼の認定誤り

審決は、「本件商標は、その構成文字に相応して『グリーンテック』の称呼のみを生じ、」(審決書9頁4~5行)と認定したが、誤りである。本件商標は、「グリーンテック」の称呼のみならず、以下のとおり、「テック」の称呼をも生ずると見なければならない。

すなわち、本件商標における「グリーン」の部分は、緑色を表す平易な英語の色彩表現であり、わが国の取引者、需要者が日常使用する表現である。

そして、ビニール被覆電線、配線ケーブル等、種類を取り違えると危険が生じたり、システムが機能しなかったりする物の種類を色分け表示し、あるいは、テープレコーダー用テープを初め、電球、電池、扇風機、洗濯機、冷蔵庫、ルームクーラー、電気釜等、種々の民生用電気製品について、種類や等級ごとに、あるいは需要者の趣味感に訴えて購買意欲を喚起するため同一の商品であっても、商品自体の色彩やその包装の色彩を変える等、同種の商品について、等級、品質、用途、機能等の違いを明確に表示して需要者の選択の便、あるいは使用の利便を図ることを目的として、商品自体又は商品の包装の色彩を変えることは、本件商標の指定商品とされている施行令別表第11類に属する商品につき、取引の実際において通常行われていることである。さらに、そのように商品を色分け表示する場合に、「グリーン」が表す緑色は、「レッド」、「ブルー」、「イエロー」などと並んで、使用頻度の高い色である。

そうすると、本件商標が指定商品に用いられる場合、その構成中の「グリーン」の文字部分は、指定商品の色彩、その色彩が表す機能等を具体的に表示するものとして、需要者一般に理解、把握されることになり、本件指定商品について識別力のない部分であることは明らかである。

したがって、本件商標は、構成全体をもって一体不可分のものと認識されるのではなく、「グリーン」の文字部分は、本件商標中の特徴部分である「テック」の文字部分を修飾する色彩表現と看取されるため、該修飾部分を省いた「テック」の称呼が自然に生ずるものである。

なお、このように、前後に「グリーン」との文字部分を付した商標のうち、その「グリーン」の部分が商品の色彩を表示する部分として認識されるに止まり、識別力がないと判断した審決例は多数存在する(甲第14~第18号証)。

(2)  称呼の類否判断の誤り

審決は、「本件商標から生ずる「グリーンテック」と引用商標1から生ずる『テック』の称呼について比較するに、両者は、それぞれの構成音数の差及び語調の差において顕著な差異があるために、明確に聴別できるものであるから、両商標は称呼において互いに紛れるおそれのないものである。・・・本件商標と引用商標1とは、その外観、称呼及び観念のいずれよりみても非類似の商標と認められる」(審決書9頁11行~10頁1行)と判断したが、本件商標と引用商標1とが類似しないとすると、次のような不合理な事態が生ずる。

すなわち、上記審決の判断に従えば、「テック」と他の色彩表現を組み合せた商標、例えば「レッドテック」、「ブルーテック」、「イエローテック」等の商標も引用商標1と類似しないと判断すべきことになり、さらに、「グリーンテック」、「レッドテック」、「ブルーテック」等の商標相互も類似しないということになろうが、そうすると、電気器具店の店頭に、例えばテープレコーダー用テープについて、「テック」、「グリーンテック」、「レッドテック」、「ブルーテック」等の各商標を付した商品が、別メーカーの商品として並び、販売されることがあり得ることになる。その場合においても、需要者に、各商標に係る商品について出所混同が生じないとするのは、取引の実際を踏まえた判断とはいいがたい。

因みに、原告の有する登録第1933409号商標「bluetec」(甲第8、第9号証)及び登録第1933410号商標「redtec」(甲第8、第10号証)は、原告の有する登録第1091188号商標「TEC」(甲第11、第12号証)及び登録第1091189号商標「テック」(甲第11、第13号証)の連合商標として登録されていたものであり、特許庁は、本件商標と同様に「テック」の称呼に色彩表示の部分を付加した「ブルーテック」又は「レッドテック」の称呼を生ずる商標と、「テック」の称呼を生ずる商標とを類似の商標と判断していたのである。

また、ある商標に色彩表現を付加した商標がもとの商標と類似しないとなると、商標権者が商標を他人の使用から保護するためには、その商標に、商品に通常使用されると考えられるあらゆる色彩の表示を付加した商標を全部登録しておく必要があるということになり、特に原告の有する引用商標1、2のような著名性の高い商標の場合は、模倣される可能性も高いので、多数の防衛的商標登録を強いられることになるが、そのようなことは、一種類の商品につき、需要者の選択の便、あるいは好みに応じて複数の色彩の商品を用意することが通常である商品については、取引の実際にそぐわない。

本件商標と引用商標1との類否判断は、ありふれた色彩表示である「グリーン」が、指定商品において商品の色彩、品質等を表示するものとして広く使用されているという取引の実際を踏まえ、本件商標の特徴部分が「テック」の文字部分であるとしてなされるべきであり、その点を看過し、本件商標と引用商標1とが非類似の商標であるとした審決の類否判断は誤りであるといわなければならない。

第3  被告は、公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第4  当裁判所の判断

1  本件審決書(甲第1号証)、本件商標の出願公告に係る商標公報(甲第2号証)、本件商標に係る商標登録原簿写し(甲第3号証)、引用商標1の出願公告に係る商標公報(甲第4号証)、引用商標1に係る商標登録原簿写し(甲第5号証)、引用商標2の出願公告に係る商標公報(甲第6号証)及び引用商標2に係る商標登録原簿写し(甲第7号証)並びに弁論の全趣旨によれば、原告の主張1、2の各事実を認めることができる。

2  本件商標から「グリーンテック」の称呼を生ずることは、原告の自認するところである。

しかして、本件商標は、別紙1のとおり、ゴシック体による同書体、同大の「グリーンテック」の片仮名文字を同間隔で横書きしてなるものであり、外観上、その「グリーン」の文字部分又は「テック」の文字部分が他の部分から独立して強調されていると見られるような態様ではない。また、その商標全体から自然に生ずる称呼である「グリーンテック」は、長音及び促音を含めても7音により構成され、特に冗長であったり、発音が困難であったりすることはなく、一連に称呼できるものであるものと認められる。

もっとも、本件商標の構成のうちの「グリーン」の文字部分が、それ自体としては平易な英語の色彩表現であることは原告主張のとおりである。そして、株式会社リクルート発行の雑誌「アントレ」平成10年1月号掲載の広告(甲第20号証)、東芝ライテック株式会社発行の「ランプ総合カタログ」平成7~8年版(甲第21号証)、松下電工株式会社発行のカタログ「暮らしのスパイス」平成9年秋・冬号(甲第22号証)、日本フィリップス株式会社発行の平成9年9月現在のカタログ(甲第23号証)、松下電器産業株式会社発行の平成9年11月1日現在のカタログ(甲第24号証)、株式会社東芝発行のカタログ「FORLIFE」平成9年秋・冬号(甲第25号証)、ソニー株式会社発行のカタログ(甲第26号証)には、それぞれ、配線用ケーブル、電球、蛍光ランプ、マッサージ機、電気剃刀、アイロン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、カールブラシ、ヘアドライヤー、ラジオ、MD等の各商品であって、それぞれの型式や等級ごとに、あるいは同一の型式・等級においても、商品自体の色彩又はその包装の色彩を変えたものが掲載されており、それらの色彩のうちで緑色系統のものも少なくない。

このことと弁論の全趣旨とを併せ考えれば、施行令別表第11類に属する商品のうち、電気機械器具、電気材料等については、同種の商品の等級、機能等の違いを表示して需要者の選択・使用の便を図り、あるいは同一の商品であっても需要者の趣味感に訴えて購買意欲を喚起するため、商品自体又はその包装の色彩を変えることが通常行われており、その際、緑色系統の色彩が用いられることも少なくないことが認められる。

しかしながら、それはあくまで商品自体又はその包装の現実の色彩に関していい得ることであり、そうであるからといって、当該商品に用いられる商標を構成する文字部分の一部が色彩を表す英語表現である場合に、その文字部分が商品自体又はその包装の色彩と関連付けられ、商品の等級、機能等あるいは商品自体の色彩を具体的に表示するものと、需要者一般に理解、把握されていると即断することはできない。この点については、前掲各公告、カタログ類(甲第20~26号証)を見ても、各商品それぞれの型式や等級に応じ、あるいは同一の型式・等級において商品自体の色彩又はその包装の色彩が2種類以上にわたる場合であっても、当該商品に係る商標の文字部分の構成が、その色彩の違いと符合して変わっているような例はほとんど見当たらず、他に上記の点を認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件商標が指定商品に用いられる場合、その構成中の「グリーン」の文宇部分は、指定商品の色彩、その色彩が表す機能等を具体的に表示するものとして、需要者一般に理解、把握されることになるとの原告主張を直ちに採用することはできない。

そうすると、前示のとおり、商標全体から自然に生じ、特に冗長であったり、発音が困難であったりすることはなく、一連に称呼できる「グリーンテック」を、ことさら「グリーン」の文字部分と「テック」の文字部分とに分離する理由はないものというべきであり、本件商標からは「グリーンテック」の称呼のみ生ずるものと認めるのが相当である。

なお、いずれも商標中の「グリーン(GREEN)」の文字部分が指定商品の色彩(品質)を表示する部分として認識されるとの理由により、昭和55年審判第21734号事件及び同年審判第21735号事件の各審決(甲第14、第16号証)は、指定商品を施行令別表第13類「手動利器、手動工具、金具。」とする「マイグリーン」との商標から「マイ」の称呼が、同年審判第7072号事件の審決(甲第15号証)は、指定商品を施行令別表第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料」とする「グリーンポール」との商標から「ポール」の称呼が、昭和50年審判第5997号事件の審決(甲第17号証)は、指定商品を施行令別表第12類「輸送機械器具その他本類に属する商品」とする「アーバングリーン」との商標から「アーバン」の称呼が、それぞれ生ずるものと認定し、また、昭和49年審判第1507号事件の審決(甲第18号証)は、同様の理由により、指定商品を施行令別表第7類「止水板」とする「GREENSEAL」との商標が自他商品識別の機能を果たさないと認定したことが認められるが、これら本件とは事案を異にする事件における審決の認定の当否は格別、本件商標に関しては、「グリーン」の文字部分を除外して「テック」の称呼が生ずるものと解することができないことは前示のとおりである。

3  引用商標1から「テック」の称呼が生ずることは原告の自認するところである。そして、これと、本件商標から生ずる「グリーンテック」の称呼との間に、音構成及び音数において顕著な相違があることは明らかである。

また、引用商標1は、別紙2のとおり、ゴシック体による同書体、同大の「テック」の片仮名文字を同間隔で横書きしてなるものであるから、これと前示の構成である本件商標とに、外観上、明瞭な差異が認められる。

さらに、本件商標及び引用商標1が、それぞれ特定の意味合いをもつとの主張立証はなく、また、特定の意味合いを持つことが顕著な事実であるともいい難いから、両商標からはともに特定の観念が生じないというほかはない。

そうすると、本件商標と引用商標1とは、その称呼、外観、観念を総合して考慮した場合に、互いに紛れるおそれのない非類似の商標と認められる。

原告は、本件商標と引用商標1とが類似しないとする審決の判断に従えば、「テック」と他の色彩表現を組み合せた「レッドテック」、「プルーテック」等の商標も引用商標1と類似せず、さらに「グリーンテック」、「レッドテック」、「ブルーテック」等の商標相互も類似しないことになるから、これら「テック」、「グリーンテック」、「レッドテック」、「ブルーテック」等の各商標を付した同種の商品が別メーカーの商品として店頭に並び、販売されることがあり得て、その出所混同が生ずると主張するが、審決の判断の範囲を超えた仮定に基づく議論というべきであって、その主張自体失当である。

また、登録第1933409号商標に係る商標登録原簿写し(甲第号9証)及び出願公告に係る商標公報(甲第8号証)、登録第1933410号商標に係る商標登録原簿写し(甲第10号証)及び出願公告に係る商標公報(甲第8号証)、登録第1091188号商標に係る商標登録原簿写し(甲第12号証)及び出願公告に係る商標公報(甲第11号証)並びに登録第1091189号商標に係る商標登録原簿写し(甲第13号証)及び出願公告に係る商標公報(甲第11号証)によれば、いずれも指定商品を施行令別表第9類「ダイヤモンド工具」として原告の有する登録第1933409号商標「bluetec」と登録第1933410号商標「redtec」とが、いずれも指定商品を施行令別表第9類「産業機械器具、動力機械器具(電動機を除く)風水力機械器具、事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)機械要素」として原告の有する登録第1091188号商標「TEC」及び登録第1091189号商標「テック」の連合商標として登録されていたことが認められるが、本件商標及び引用商標1と指定商品自体及びその類別を異にし、本件商標とは、称呼、外観、観念をも異にするこれらの商標についてなされた、連合商標の登録の要件としての「自己の登録商標・・・に類似する商標」(平成8年法律第68号による改正前の商標法7条1項)に該当するとの判断が、本件商標と引用商標1との類否判断に直ちに影響を及ぼすものとはいえない。

さらに、原告は、ある商標に色彩表現を付加した商標がもとの商標と類似しないとなると、商標権者が商標を他人の使用から保護するためには、その商標に、商品に通常使用されると考えられるあらゆる色彩の表示を付加した商標を全部登録しておく必要があると主張するが、本件商標が引用商標1と類似せず、かつ、その他の登録要件を具備して有効に登録された場合においては、被告その他の権利者が本件商標を使用することが、原告の有する引用商標1を使用することに当たらないことはいうまでもなく、したがって、商標権者が商標を他人の使用から保護する必要のある場合にはそもそも該当しないから、原告の上記主張はそれ自体失当である。

4  以上のとおり、原告の審決取消事由の主張は理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

(別紙1)

本件商標

<省略>

(別紙2)

引用商標1

<省略>

平成5年審判第14566号

審決

静岡県田方郡大仁町大仁570番地

請求人 株式会社テック

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 鈴江武彦

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 小出俊實

東京都世田谷区船橋7-8-1の1020

被請求人 河内一男

上記当事者間の登録第2419735号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

1. 本件登録第2419735号商標(以下、「本件商標」という。)は、「グリーンテック」の片仮名文字を横書きしてなり、第11類「テープレコーダー用テープ、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和52年12月13日に登録出願され、平成4年6月30日に設定登録されたものである。

2. 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第1240435号商標(以下、「引用商標1」という。)は、「テック」の片仮名文字を横書きしてなり、第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」を指定商品として、昭和44年6月10日に登録出願され、同51年12月13日に設定登録され、その後、同61年11月13日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

同じく、第1668400号商標(以下、「引用商標2」という。)は、「TEC」の欧文字を横書きしてなり、第11類「電球類および照明器具、民生用電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具」を指定商品として、昭和53年4月12日に登録出願され、同59年3月22日に設定登録され、その後、平成6年7月28日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

3. 請求人は、「登録第2419735号の商標登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第4号証を提出した。

(1)本件商標は、請求人の先願登録に係る引用商標1及引用商標2とそれぞれ類似し、指定商品も同一または類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、その登録は無効とされるべきものである。

(2)本件商標は、前記のような構成から、「グリーンテック」と称呼されるほか、単に「テック」の称呼をもって取引きされることのあるものである。

本件商標の構成中、前半の「グリーン」の部分は、色の一種を表す語として親しまれているものであり、「グリーンテック」が全体としては、その親しまれている色を表す語と関係のない他の語を構成しているものとも思われないし、また、その指定商品中には、ビニール被覆電線、絶縁テープ又は磁気テープ等、色分けによって使用の利便を図っているものが数多くあり、本件商標がこれらの商品について使用されるときは、前半の「グリーン」の部分は、その色を表すものと認識されるのが普通である。

したがって、取引きにあっては、後半の「テック」の部分の特徴によることになり、その部分から生ずる「テック」の称呼によって自他商品の識別に当たる場合が少なくないことは明白である。

他方、引用商標は、前記のような構成から、いづれも「テック」の称呼を生ずるものである。

そこで、本件商標と引用商標を比較すると、前述のように、共に「テック」の称呼を生ずるものであるから、両商標は称呼上類似するものである。

また、本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似の関係にあることは、詳述するまでもなく明らかなところであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するにもかかわらず登録されているものであり、本件商標の登録は、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきである。

(3)請求人は、本件商標の登録に至るまでの経緯において、登録異議の由立てをしたところ、審判官は、本件商標の認定において、「構成中の「グリーン」のみを捉えた場合、該文字には「緑(色)、芝生」等の意味があるとしても、本願商標は「グリーンテック」の文字が同書、同大、同間隔をもって一体的に表示されており、かかる構成にあっては、該文字部分は商品の色彩(品質)を表すものとはいい難く、また、全体より生ずる「グリーンテック」の称呼も冗長に亘るものとはいえず、淀みなく一連に称呼し得るばかりでなく、他に「TEC」の文字部分のみを抽出して把握しなければならない特段の事由も見出し得ない』から、「グリーンテック」とのみ称呼されるものであるとの判断を示された(本件商標の登録の際の審判における登録異議の決定)。

この認定は、たとえば、商品、グリーン色の絶縁テープに、一方は「テック」の商標、他方「グリーンテック」の商標を使用しているという場合でも、商品の出所の混同を生じないというのであるから、取引きの実際を踏まえての認定とは思えない。

商品の普通名称とか商品の属性を表す語を商標の前後に付して使用されることは多く、それが仮に一連に称呼される場合にあっても、商標部分の特徴が消えるものでもない。

このことは、特許庁の商標審査基準でも認めている経験則である。

たとえば、登録商標と使用商標の同一性の判断についての商標法第19条~第22条の審査基準において、

VERNASE→NEOVERNASE

ベルナーゼ ネオベルナーゼ

を登録商標の使用に当たるものの例に挙げている。

おそらくは、「ネオベルナーゼ」は、「ネオベルナーゼ」と一連に称呼されることになるのかも知れないが、なお、その構成中の「ベルナーゼ」の特徴によって自他商品の識別に当たることになるものであるから、商標としては同一性のあるものとして取り扱うという常識的な判断に立っているものと思われる。

これを本件商標についての前記登録異議の決定における認定とを比較してみれば、一方は同一性の範疇でとらえ、他方は類似でもないというのであるから、いかにその判断が食い違っているかは明確なところであり、前記登録異議の決定において、本件商標が一連にのみ称呼され、そのために引用商標と類似しないことになるという理由付けにしていることは経験則を無視した結果となっているものである。

4. 被請求人は、本件審判について何ら応答していない。

5. よって、本件商標と引用商標1の類否について判断するに(なお、引用商標2は、当該商標登録原簿及び商標公報を徴するに、前記のとおり「昭和53年4月12日」に登録出願されたものであり、同じく、本件商標は、「同52年12月13日」に登録出願されたものであるから、本件商標は、引用商標2との関係においては、商標法第4条第1項11号に違反して登録されたものではない。)、本件商標は、その構成前記のとおりであって、「グリーンテック」の文字が同書、同大、同間隔に一体的に表現されているばかりでなく、これより生ずる「グリーンテック」の称呼も冗長に亘るものでなく一連に称呼できるものである。

そして、構成中の「グリーン」の文字が、請求人主張のように、色の一種である「緑色」を表す語として親しまれているとしても、かかる構成においては、「グリーン」文字部分が商品の品質(色彩)・機能等を具体的に表示するものとして、理解、把握されるものとは言えない。むしろ、構成全体をもって一体不可分のものと認識されるものとみるのが自然である。

そうとすれば、本件商標は、その構成文字に相応して「グリーンテック」の称呼のみを生じ、かつ、特定の意味合いを有しない一種の造語よりなるものと判断するのが相当である。

一方、引用商標1は、「テック」の文字よりなるものであるから「テック」の称呼を生ずることが明らかである。

そこで、本件商標から生ずる「グリーンテック」と引用商標1から生ずる「テック」の称呼について比較するに、両者は、それぞれの構成音数の差及び語調の差において顕著な差異があるために、明確に聴別できるものであるから、両商標は称呼において互いに紛れるおそれのないものである。

また、両商標は、その外観、観念の点においても十分に区別できるものである。

してみれば、本件商標と引用商標1とは、その外観、称呼及び観念のいずれよりみても非類似の商標と認められるから、商標法第4条第1項第11号に該当するものでない。

なお、商標の類否の判断は、具体的事案に即し個別的になされるものであるから、請求人が、前記「3.(3)」において主張している事項は、本件商標の類否の判断に影響を与えるものとはいえない。

したがって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年2月10日

審判長特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例